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遺棄毒ガス・チチハル訴訟東京地裁判決要旨

判決要旨
判決言渡日:平成22年5月24日午後1時10分 103号法廷
事件番号:平成19年(ワ)第1441号
事件名:損害賠償等請求事件
裁判官:裁判長裁判官 山田俊雄
裁判官:上拂大作
裁判官:川﨑博司
当事者:原告48名
被告:国
主文:請求棄却

事実及び理由の要旨
1 事案の概要
(1) 本件は,旧日本軍が毒ガス兵器(毒ガスの入ったドラム缶)を,中国園内に遺棄・隠匿又は残置し,その後も被告がこれを放置し続けたため,平成15年8月4日早朝,中国黒竜江省チチハル市龍沙区民航路の地下駐車場工事現場(チチハル飛行場に付設された旧日本軍の弾薬庫跡地,以下「本件第1現場」という。)から5本の毒ガスの入ったドラム缶が掘り出され,その後ドラム缶や毒ガスに汚染された土が他の場所(本件第2現場から第8現場まで)に運ばれた結果,原告43名及び李貴珍が,本件第1現場から第8現場までの各場所において, ドラム缶に直接触れたり,毒ガスによって汚染された土に触れたり,毒ガスが気化したものを吸い込んだりなどして被毒し,同原告らが傷害を負い,李貴珍が死亡するという事故が発生した(本件事故)と主張して,同原告ら及び李貴珍の相続人である原告5名が,被告に対し,国家賠償法1条に基づき,本件事故に基づく損害金の支払を求める事案である。

(2) 原告らの主張は次のとおりである。
ア (1)公務員ないし国家機関により一定の法益侵害の危険性ある行為が行われ(先行行為の存在),(2)その法益侵害の危険が現存し(危険性の存在),(3)被告の公務員がその法益侵害の危険性を予見することができる(予見可能性の存在)場合において,作為義務の内容が具体的に導かれ,ついで,(4)技術的,経済的,社会的制約等のため,当該作為を行うことが不可能であるか否か(結果回避可能性の存在)が検討されるべきである。

イ 本件においては,(1)旧日本軍が毒ガスを内容物とするドラム缶(以下「本件毒ガス兵器」という。)を中国国内に持ち込み,本件現場に埋設して遺棄したところ(先行行為の存在),(2)本件毒ガス兵器は危険物であり,これを隠匿のため埋設し,あるいは軍隊の管理下におかれない状態で残置することは,情を知らない一般民間人らの生命,身体に重大かつ重篤な被害を与える危険を生じさせたものであり(危険性の存在),③被告の公務員は,本件第1現場を含むチチハル飛行場内の軍事関連施設の跡地に毒ガス兵器が存在していることについての予見可能'性があった(予見可能性の存在)。

ウ そうすると,被告の公務員は,条理上,本件事故の発生を未然に防止すべき高度の結果回避義務(作為義務),すなわち,チチハル飛行場及びそこに付設された軍事関連施設における毒ガス兵器の配備・保管・処理状況に関する情報を収集し調査するとともに,地歴等調査によってチチハル飛行場の場所及び上記軍事関連施設の場所に関する情報を収集した上,それらの情報に基づいて更に調査を行って,遺棄毒ガス兵器が存在している蓋然性の最も高い地域としてチチハル飛行場に付設された弾薬庫跡地を調査範囲の中に画定し,上記跡地について最高水準の技術を用いた土壌・地下水調査や物理探査等による環境調査を行って毒ガス兵器の探索を行い,これを回収して無害化処理するという作為義務を負うこととなる。そして,上記作為義務を履行するについては,④の結果回避可能性も認められる。

エ にもかからわず,上記作為義務を履行しなかったことにより,本件事故が発生したのであるから,被告の作為義務違反と本件事故との間には因果関係があり,被告は原告らに対する損害賠償責任を負う。

2 判決要旨
(1) 上記(1)について
本件毒ガス兵器は旧日本軍関係者によって遺棄されたものであり,被告の機関であった旧日本軍に属する公務員により違法な先行行為が行われたと認めることができる。

(2) 上記(2)について
本件毒ガス兵器は,人の生活圏内に存在していて,その内容物である毒ガスに接触するなどした原告らの生命・身体に危険をもたらしたものであるから,人の生命・身体という重要な法益に対する危険性があり,これが切迫した状態にあった。

(3) 上記(3)について
被告の担当者においては,本件事故が発生した平成15年8月までには,チチハル市内における旧日本軍の駐屯地やその軍事関連施設付近に存在する毒ガス兵器が,付近住民と接触することにより,付近住民の生命・身体に危害を及ぼすことを予見することは可能であった。

(4) 作為義務について
中国に遺棄された旧日本軍の毒ガス兵器は,中国本土に広範囲にわたって存在していたのみならず,同兵器は,川や古井戸に投棄されたり地中に埋められたりしていたというのであるから,本件第1現場を含め,旧日本軍が駐留し,毒ガス兵器が遺棄された可能性のある地域すべてを本件事故時までに調査することは極めて困難であったこと,チチハル市内あるいはチチハノレ飛行場やその軍事関連施設の場所の探索を,他の地域よりも優先すべきであったと認めることはできないことなどを考慮すると,被告に,原告らが主張する本件事故の発生を未然に防止すべき作為義務があったと認めることはできない。

(5) 結論
本件事故により原告らが受けた生命,身体への被害は甚大であり,その精神的苦痛,肉体的苦痛は極めて大きいもので、あったことは明らかであるものの,原告らが主張する被告の法的責任は認め難い。
(以上)

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