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強制連行・福岡訴訟第1陣控訴審福岡高裁判決要旨

平成14年(ネ)第511号 損害賠償請求控訴事件

【判決要旨】

第1 事案の概要等

本件は、
1  中華人民共和国の国民である一審原告らが、被控訴人国は、日中戦争及び太平洋戦争を遂行する過程で、一審被告会社とともに、一審原告らを、日本に強制的 に連行し、一審被告会社の田川鉱業所等で強制的に労働させ、戦後も、上記事実を正面から認めず、証拠を隠滅する等して、一審原告らの権利行使を妨害してい る等と主張して、被控訴人国及び一審被告会社に対し、連帯して、謝罪広告の掲載並びに不法行為及び債務不履行に基づく慰謝料等(各2300万円)の支払を 求めたところ、

2 原審が、一審被告会社に対する慰謝料等の一部(各1100万円)の支払のみを認め、一審被告会社に対するその余の請求及び被控訴人国に対する請求をいずれも棄却したので、

3 一審原告ら及び一審被告会社がそれぞれ控訴した

事案である。

第2 争点
  1. 責任原因
    1. 戦前の不法行為責任
    2. 戦前の保護義務違反
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    4. 戦後の保護義務違反
    5. 戦後の不法行為責任
  2. 国家無答責の法理
  3. 時効と除斥期間
    1. 1(1)に基づく損害賠償請求権の民法724条の期間経過による消滅
    2. 1(2)に基づく損害賠償請求権の時効消滅
  4. その他
第3 当裁判所の判断

1 戦前の不法行為責任の成否

(1) 強制連行責任の有無
ア  一審原告らは、故郷を出て石門等の集結地で一定の時を過ごし、または、いきなり塘沽に連行された後、日本に向かう船に乗船させられ、その間、中国人警察官 や日本軍兵士に監視され、塘沽では、電流を通した鉄条網で周囲を囲まれた区画内で、逃亡しようとする者は殴られたり、銃で撃たれたりする環境のもとで拘束 を受けて過ごし、日本に連れて行かれる可能性が高いと判明した後も、これを拒否することは不可能であったこと等を総合すると、一審原告らが田川鉱業所等で 労働に従事するために日本に連れてこられたことは、強制的な連行であると評価せざるを得ない(以下「本件強制連行」という。)。

イ 本件強制連行は、一審被告会社も深く関わった被控訴人国の国策に基づいており、その実態にかんがみれば、被控訴人国と一審被告会社は、本件強制連行につき、共同不法行為責任を負う。

(2) 強制労働責任の有無
ア 一審被告会社が、一審原告らを田川鉱業所等で労働に従事させた実態は、強制労働であると評価せざるを得ない(以下「本件強制労働」という。)。

イ  本件強制労働は、被控訴人国が、軍需会社法その他の関係法令によって、一審被告会社の経営、人事を支配し、実際にも取締りに当たる等して国策として行われ たものであって、本件強制労働を幇助したものと評価することができるから、被控訴人国と一審被告会社は、本件強制労働につき、共同不法行為責任を負う。

(3) 本件強制連行・強制労働は、手段・目的として不即不離の関係にあったから、被控訴人国と一審被告会社は、民法709条、715条及び719条1、2項により、連帯して、本件強制連行・強制労働により一審原告らが被った損害を賠償する責任がある。

2 国家無答責の法理について
(1)  我が国は成文法国家である。公務員の権カ的行為に基づく不法行為に関しては、国の責任を否定すべきであるという実定法規定はなく、民法715条が不法行 為責任の発生する余地を排斥していない以上、同条を適用するか否かは、国賠法施行前においても判例にゆだねられたものと解さざるを得ず、戦前の判例を前提 としても、特段の事情がある場合には、国は不法行為責任を負わなければならないと解釈する余地は残されていた。

(2) 行政裁判法16条や国賠法附則6項の定めも、国家無答責の法理に関する被控訴人国の主張を根拠付けるものではなく、本件では、同法理は適用されない。

3 除斥期間について
(1) 民法724条後段の期間は、不法行為によって発生した損害賠償請求権について除斥期間を定めたものであるところ、本件での同期間の起算点は、本件強制労働が終了した1945年(昭和20年)8月24日である。

(2) 裁判所による民法724条後段の効果制限
ア 除斥期間の場合、被害者の有する真実の権利は、不法行為時から一定期間の経過をもって消滅してしまうが、権利を行使する側に期間内に権利を行使することが およそ不可能な事情があり、単に期間が経過したという一事情のみをもって権利が消滅したとすることは、国民の正義・公平の感情に著しく反する場合もあり得 よう。平成10年最高裁判決は、正義・公平の観点を、法的安定性よりも重視すべき事案があり得ることを示した。

同条後段の効果制限についての解釈の指針
(ア) 上記判決の事案と比較し、それに匹敵するような特段の事情がある場合には、著しく正義・公平の理念に反するものとして、法的安定性を犠牲にしてでも、同条後段の効果を制限することは条理にもかなう。

(イ)特段の事情としての考慮要素は、次のとおりである。
a 加害行為の態様が悪質で、かつ、生じた被害も甚大で、看過し得ないこと(以下「要素A」という。)
b 被害者が除斥期間経過前に権利を行使することが客観的に不可能であること(以下「要素B」という。)
c 加害者が積極的に証拠を隠滅し、又は提訴を妨害した等、除斥期間経過による権利消滅の利益を享受させることを不相当とする事情が存すること(以下「要素C」という。)
d 被害者が、権利行使が可能になって速やかに権利を行使したこと(以下「要素D」という。)

(3) 特段の事情としての考慮要素の有無(被控訴人国関係でのまとめ)
ア 要素Aについて
一審原告らが被った被害は甚大で、容易に看過し得ないところ、この被害は、本来悪をなしえず、また、高い道義性を求められる被控訴人国の極めて悪質な不法行為に起因するから、要素Aを具備していると評価することができる。

イ 要素Cについて
被控訴人国は悪質な証拠隠滅活動をしたといわざるをえないから、要素Cを具備していると評価することができる。

ウ 要素Bについて
(ア) 1972年(昭和47年)9月29日、日本国と中華人民共和国が日中共同声明に署名するまでは国交が途絶しており、一審原告らは、上記請求権を行使することが客観的に不可能であったから、要素Bを具備していたと評価することができる。
(イ) 1986年(昭和61年)2月1日、中国で公民出国入国管理法が施行されるまでは、一審原告らは、私事による出国が認められていなかったから、要素Bを具備していたと評価する余地がある。
(ウ) 1986年2月1日以後は、一審原告らも私事による出国が認められるようになったから、要素Bを具備しているとは評価し得ない。証拠が乏しかったとしても、それは勝訴可能性の問題であって、権利行使可能性の問題ではない。

エ 要素Dについて
最も早い提訴日の2000年(平成12年)5月10日は、1986年2月1日からでさえ約14年が経過し、本件不法行為が終了した1945年8月24 日、または、その後、日本を出国した同年11月22日からは、約55年が経過しているので、2000年5月10日時点で、要素Dを具備しているとは評価し 得ない。

オ よって、本件強制連行・強制労働という不法行為に基づく一審原告らの被控訴人国に対する損害賠償請求権は、2000年5月10日前に、20年の除斥期間の経過により消滅した。

(4) 一審被告会社関係でのまとめ
一審被告会社との関係でも、本件強制連行・強制労働という不法行為に基づく一審原告らの損害賠償請求権は、2000年5月10日前に、20年の除斥期間の経過により消滅した。

4 一審被告会社の戦前の保護義務違反の成否

(1)  一審被告会社は、一審原告らを直接支配・管理し、自らの提供する道具等を使用させて労働の提供を受けていた実態があり、本来は契約を締結して労務の提供 を受けることが予定されていたことに照らしても、両者間には、債務不履行責任を負わせることを相当ならしめるに足る直接の契約関係があるのと同視し得るよ うな関係が存していたというべきであるから、一審被告会社は、信義則上、一審原告らに対し、身体、生命、健康及び財産等に対する保護義務を含意する安全配 慮義務を負っていた。しかるに、一審被告会社は、しかるべき報酬も支払わず、安全衛生に十分な意を用いない劣悪な職場環境で、本件強制労働に従事せしめた のであるから、一審原告らに対し、保護義務違反によって生じた損害を賠償すべき義務を負う。

(2)  (1)の損害賠償請求権は、1986年2月1日公民出国入国管理法施行後、一審原告らにおいて上記損害賠償請求権の行使を現実に期待することができるよ うになったところ、最も早い提訴日の2000年5月10日は、1986年2月1日から起算して14年余経過しているから、10年の消滅時効が完成し、一審 被告会社の同時効援用が信義則違反ないし権利濫用に当たるとはいい難いから、上記請求権は時効により消滅した。

5 被控訴人国の戦前の保護義務違反の成否

被控訴人国と一審原告らとの実態からは、保護義務を認め難い。

6 一審被告会社の戦後の保護義務違反の成否

 戦後は、一審被告会社についても、債務不履行責任を負わせることを相当ならしめるに足る直接の契約関係があるのと同視し得るような関係を認め難いから、保護義務の発生は認めることができない。

7 被控訴人国の戦後の保護義務違反の成否

 被控訴人国に、一審原告ら主張の保譲義務を認める余地はない。

8 戦後の不法行為責任の成否

一審原告らの主張は、いずれも採用できない。

9 結論

 以上によれば、一審原告らの、被控訴人国及び一審被告会社に対する各請求は、いずれも理由がなく、棄却を免れない。

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