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中国人強制連行・強制労働事件福岡第二陣訴訟報告

2007年7月31日
二陣弁護団事務局長 弁護士 稲村晴夫

第1 訴訟の概要

1.事案の概要

原告 45名
被告 国、三井鉱山、三菱マテリアル
請求 主要新聞への謝罪広告及び1人当たり2300万円の賠償金の支払

2.事件の特徴

本件訴訟は福岡一陣訴訟の第一審判決(2002年4月26日)の三井鉱山に対する勝訴判決を契機として提訴されたものである。上記第一審判決は劉連仁訴訟 の国に対する勝訴判決に続き、我が国における戦後補償裁判において初めて加害企業に勝訴するという画期的なものであった。その結果は、中国国内においても マスコミによって大きく報道され、多くの中国人被害者らが知るところとなった。

日本において日本国や加害企業を相手として損害賠償請求の裁判ができること、福岡においては企業に勝訴したことを知った被害者らの多くが訴訟による被害回復の闘いに立ち上がった。

それらの被害者のなかから、福岡県内に炭鉱のあった三井鉱山と三菱マテリアル(旧三菱鉱業)で強制労働させられた生存者で、記憶もしっかりしている人を中 国側で選んでもらった。弁護団は訪中して提訴希望者から直接事情を聴取し、その結果45人を原告とする二陣訴訟が提起された。

3.訴訟の経過

提訴 2003年2月28日
1審判決 2006年3月29日(原告敗訴)
控訴 2006年4月11日
現在福岡高等裁判所において審理中

4.訴訟の争点

第2 判決が認定した加害の事実

1.戦争の拡大と労働力の不足

(略)

2.中国人労働者移入政策の決定

(略)

3.強制連行された中国人の年齢構成

20歳から29歳までの者が17,044人(43.8%)と最も多く、40歳以上の者が7,330人(18.8%)、15歳以下157人(0.4%)、70歳以上12人(0.03%)であった。

行政供出された労働者の年齢構成は、最年少が11歳、最高齢は78歳であり、40歳以上の者が22.3%を占めていた。

4.強制連行(日本国内への移入)

原告らは、いずれも日本軍に身柄を拘束され、あるいは虚偽の募集広告によって欺網されて、日本へ連行されたものである。

原告らは、中国ないしその港内の日本船内で、加害企業に身柄を引渡されたが、多くの場合、その輸送船内にも日本兵がいた。

5.宿舎等における拘束

宿舎には、防諜及び逃亡防止のための見張り所が設けられ、自由な外出は認められなかった。

また、現場への往復は、多くの場合、企業の担当者の監視のもとで行われた。そして逃亡する者があると武力で制圧され、厳しい処分を受けた。

6.暴言と暴力

企業の現場監督は、作業目標が達成できなかったり、指示通りに作業が行われなかったりすると、中国人らに対して「チャンコロ」「バカヤロウ」等と暴言を浴びせ、殴ったり蹴ったりする暴行を加えた。

7.食事

中国人らは重筋労働に従事するに足る十分な量と質の食事を与えられていなかったところ、制裁として減食を課せられ、労働に従事させられた。 

第3 判決が認定した被害の事実

1.三井鉱山における被害の状況

? 就労・死亡・負傷状況

三井鉱山には全国10の事業所に5517人の中国人が連行されて、強制労働をさせられた。

福岡県内の炭鉱における就労数及び死亡数、重傷者数は以下のとおりである。

炭鉱名 就労者数 死亡数 重傷者数
合計 3686 478 167
田川第二坑 371 26 19
田川第三坑 297
三池宮浦坑 570 383 124
三池萬田坑 1802
(四山に694転出)
三池四山坑 694
山野坑 646 69 24

? 強制労働の実態

(1) 四山坑では、現場まで日本人が付き添い、一人の日本人が数人の中国人の労働を監視し、仕事の能率が悪いなどの場合にはベルトや鞭で打たれたり、手拳や棒で殴打された。

(2) 萬田坑では、仕事上の不手際があったり、ノルマを達成できなかったときには、日本人の監督に棍棒で殴られるなどされ、また仕事中に限って食事を与えられないこともあった。

(3) 田川坑では、作業が遅れたり止まったりすると、日本人から手拳、金槌、棒などで殴られたり、足蹴りされ、食事を半分に減らされるなどした。

(4) 山野坑では、空腹のため動けなくなった中国人が日本人監督から殴られた。

⑤ 宮浦坑で強制労働させられた原告李述は、いじめられた仲間をかばおうと監督に抗議したところ、木ですねを激しく叩かれ、骨折のため2ヶ月入院し、現在も歩行に杖が必要である。

? 中国人に対する処遇

(1) どの原告も、正月を除いて休日は全くなかったとしており、正月についても多くの原告が休みがなかったと述べている。休日はほとんど与えられなかったものと認められる。

(2) 多くの中国人が作業中、日常的に暴行を受けたものと認められる。暴行には道具が用いられることがあり、ハンマー、シャベル、斧、ノコギリ、木棒、丸太などが用いられ、場合によっては凄惨を極め、即死する者もいた。

(3) 食事については、肉や魚は与えられなかったこと、道端の野草を採ったり、捨てられたミカンの皮を拾って食べたりする者があり、見つかると食事の量を減らされたり、殴られたりしたことが認められる。

2.三菱マテリアルにおける被害状況

? 就労・死亡・負傷状況

三菱マテリアル(旧三菱鉱業)には全国9の事業場に2709人の中国人が連行され、強制労働させられた。

福岡県内の炭鉱における就労者数及び死亡・重傷者数は以下のとおりである。

炭鉱名 就労者数 死亡数 重傷者数
勝田 352 87 19
飯塚 188 19 10

? 強制労働の実態

(1) 飯塚炭鉱では、仕事が遅くなったり、目を盗んで休憩したりすると、日本人監督がハンマーや棍棒、手拳で中国人を殴ったり、蹴ったりした。坑内作業 をしないで、毎日「この畜生め、殺してやる」とつぶやいていた中国人は、いつも監督から殴られ、宿舎の中庭に両手を縛られて宙吊りにされた。

(2) 勝田炭鉱では、休息しているところを監督に見つかると、ベルトや手拳で殴られたり、足蹴りされ、中国人の班長に殴られることもあった。

? 中国人に対する処遇

(1) 勝田炭鉱に連行された原告唐坤之と時恵忠は、7日目に逃亡したが、つかまってしまい、警察において暴行を受けたうえ、十数日間拘束された。

その後、北海道のイトムカ事業所(不良華人収容所)に送られ、極寒の地で木の伐採作業に従事させられた。ノルマが達成できない時は食事を減らされた。

(2) 飯塚炭鉱の宿舎の周囲には、約2mの板塀が張り巡らされ、その上に鉄条網があり、日本人が監視にあたっていたほか、敷地入口には警察官の詰所があった。

(3) 勝田炭坑では中国人352人中、87人(24.7%)が死亡した。死因は、落盤その他労働災害による者が2人、病死が85人である。

同炭坑では19人が重傷、42人が軽傷を負い、8人が不具廃疾となった。

第4 主要な争点に対する判決の内容

 1.不法行為

判決は以下のように判示して、国と加害企業の共同不法行為の成立を認めた。

(1) 国の公務員は、国が行なった中国人の移入政策の実施にあたり、原告らを日本へ強制連行した一連の過程において、原告らに直接暴力を加えたり、武器 を所持して監視するなどしたうえ、原告らが強制労働に従事した各事業場を経営する企業の経営などを支配し、原告らの監視にもあたって、強制労働にも加担し たものである。従って国は不法行為を行なったと認められる。

(2) 三井・三菱は、原告らが自らの意思に基づいて来日するものではないことを知っていたか、知り得る状況にあった。また企業は、厚生省に雇用願を提出し、中国人の割り当てを受けて、中国人らの同意もないままに、非人間的な処遇のもとに直接支配して労働に従事させた。

従って三井・三菱は、本件強制連行・強制労働を国と共同して実行したものと認められ、国との共同不法行為となる。

2.国家無答責

判決は以下のように判示し、国家無答責の法理を認め、国に対する請求を棄却した。

(1) 行政裁判法、裁判所構成法及び旧民法が公布された明治23年(1890年)の時点において、公権力行使について国家が責任を負わないとする法政策が確立されたものと認められる。

(2) 国家無答責の法理は、実体法上の理由によるものであり、外国人や国外で行なわれた行為に対して同法理が適用されないとする実体法上の根拠はなく、同法理は本件においても適用される。

(3) ILO29号条約が強制労働を禁止していることは、本件強制連行・強制労働が違法であることを基礎づけるものではあっても、その違法行為により国が損害賠償義務を負うか否かという国家無答責の法理に影響を及ぼすものではない。

3.時効・除斥

判決は以下のように判示して、企業に対する損害賠償請求権は1945年8月から20年を経過したことによって消滅したとした。

(1) 民法724条の20年は、不法行為に基づく損害賠償請求権の存続期間を定めたものであり、除斥期間と解すべきである。

(2) 本件においては、1945年8月15日が起算日となり、すでに20年を経過しており、原告らの損害賠償請求権は消滅した。

(3) 本件においては、中国において1986年2月1日に公民出国入国管理法が施行されるまでは、私事による出国が認められず、原告らの権利行使が極め て困難であったことは認められる。しかしこれらの事情は、時効の停止など実定法が権利の消滅を否定することを想定している場合にあたらず、また国・企業の 行為によって生じたものとも言えない。

従って、本件が除斥の適用を制限すべき事例とは言えない。

4.安全配慮義務

判決は以下のように企業の安全配慮義務について特異な論理を展開して、国・企業に対する安全配慮義務の成立を否定した。

(1) 本件各事業所について、原告らの労働条件や労働管理に関し、厚生大臣が具体的に命令をしたり、労務監理官が具体的な監督指導を行なったことは認められない。従って、国と原告らとの間に特別な接触の関係を認めることはできず、国は安全配慮義務を負わない。

(2) 使用者が労務者に対して信義則上の安全配慮義務を負うのは、使用者が労務者から労務の提供を受ける立場にあり、両者の間に事実上の使用関係、支配 従属関係、指揮監督関係が成立しており、労務の提供に当たって、使用者の設置ないし提供する場所、施設、設備、器具等が用いられている以上、労務者が労務 を遂行するに当たって被用者の生命・身体等に生じる危険から保護すべきであるとの理由によるものと考えられる。したがって、安全配慮義務が成立するには、 上記のような関係が、少なくとも当該使用者と労務者との間においては是認されていることを要するというべきである。ところが、本件における使用者である被 告会社らと原告らとの関係は不法行為に起因する違法な状態に基づくものであって、本来、原告らは即時に解放されなければならない状態であったものである。 そのような状態にある両者の関係においては、労務を提供するに当たって使用者である被告会社らが労務者である原告らに対してその生命・身体の安産に配慮す べき安全配慮義務の成立を認めることはできない。なぜなら、この義務を認めて被告会社らにその履行を求めることは、原告らが上記のような状況において労務 を提供することを前提とするのであるから(そうでなければ、その安全配慮義務の履行ができない。)、結局、上記のような違法状態の継続を認めることとなっ て、到底容認されるべきものではないからである。また、安全配慮義務の法的根拠が信義則に求められるところ、一般に、信義とは相互の信頼を保つことを意味 するが、不法行為者に対してこれを要求することは背理というべきである。

5.戦後の原状回復義務違反の不法行為又は保護義務の債務不履行

原告らは、被告らが戦後一貫して強制連行の事実を否定した結果、戦時下の敵国に労務を提供したとの非難を受け、かかる原告らに対する名誉回復措置として、被告らが強制連行・強制労働の真実を明らかにし、対外的に公表すべき義務があると主張する。

しかし、原告らが、上記のような非難を受けたのは中国国内における誤解によるものであるというべきであって、被告らの行為との相当因果関係を認めることはできない。

6.戦後今日まで犯罪行為と隠滅し、提訴を妨害してきた不法行為

原告らの主張する不法行為の内容は、国は(1)強制連行・強制労働に関する書類を焼却したり、中国人の遺骨を隠匿するなどして証拠資料を隠匿し、(2)外 務省報告書を隠匿したり、同報告書等を焼却し、(3)国会答弁等において、強制連行・強制労働の事実を否定し、(4)ILO29号条約25条に反して、強 制労働を強要した被告会社らの刑事訴追と処罰を行なわないというものである。

しかし、(1)ないし(3)の各事実は、いかなる法的義務に違反したものか不明である上、いずれも原告ら各個人に対する不法行為となるものではない。

また、上記条約に基づく国の義務は、相手方である締約国に対する国際法上の義務であり、仮に刑事制裁措置を執らなかったとしても、原告らの権利ないし利益 を害するものではないから、原告らに対する不法行為となるものではない。同条に違反することが国内法的に犯罪に該当するとしても、犯罪の捜査及び検察官の 公訴権の行使は、国家及び社会の秩序維持という公益目的で行なわれるものであって、犯罪被害者の被侵害利益ないし損害の回復を目的とするものではないか ら、犯罪捜査を行なわないことは、特段の事情がない限り、犯罪被害者に対する不法行為となるものではなく、本件においてこの特段の事情を認めるに足りる証 拠はない。

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