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福岡第一陣訴訟報告

2007年7月12日
弁護団事務局長弁護士 松岡 肇

第一 訴訟の概要

1 事案の概要

当事者 原告15名(三井鉱山田川鉱業所4名、三池鉱業所11名)
被告 国、三井鉱山株式会社
提訴
2000年5月10日(9名)
2001年5月10日(3名、追加提訴)
2001年10月30日(3名、追加提訴)

主張
日中主要新聞への謝罪広告及び1人2,000万円の賠償と弁護士費用の支払い。

2 事件の特徴

原告の1人は試験移入により連行されている。全員が河北省から連行されている。うち5名は、日本兵又は傀儡軍によって突然強制的に拉致・連行されており、 他の10名は「仕事がある、一日35元になる」と誘われ、これに応じたら幽閉・連行されている。連行時の年齢は14歳から23歳まで。何れも農民である が、中には八路軍の情報係りに従事していた所を密告されて逮捕された原告もいる。

労働は、地下数百メートルの真っ暗な地底での石炭採掘作業である。原告たちの中で炭鉱労働の経験がある者はなく、原告らにとっては、爆発や落盤の恐れにさらされながら暗黒の中で行う労働はまさに精神的恐怖そのものであった。

3 訴訟の経過

福岡地裁(一審)は、2000年6月30日の第1回弁論から2001年12月21日の結審弁論まで14回の裁判を経て、2002年4月26日に判決があっ た。正味1年半の期間に14回の弁論があったことになる。夏冬を除けばほぼ毎月の法廷であった。この判決は、国と企業の共同不法行為を認定した。国に対し ては国家無答責を理由にその責任を免除したが、被告三井鉱山に対して、原告1人1100万円、総額1億6500万円の支払いを命じる画期的勝訴判決であっ た。被告三井は即日控訴した。

福岡高裁(控訴審)は、2002年10月4日の第1回弁論から9回の弁論を経て、2004年5月24日に判決があった。この判決は、1審に引き続いて事実 を認めた。そのうえで国家無答責の主張を排斥するなど、極めて慎重な審理を行ったが、結果として残念ながら時間の経過を理由に逆転敗訴の判決となった。原 告は直ちに上告した。

最高裁第3小法廷は、2007年4月27日に上告棄却、上告不受理決定を行った。これは同日為された西松建設に対する第2小法廷の判決に続くものである。

4 訴訟の争点

国を被告とする点では劉連仁事件と同じであるが、企業を被告とする点で安全配慮義務の成立如何、時効の成否如何があわせて争点となった。なお福岡では、中 国民法による不法行為責任やILO29号条約違反などは取り上げていない。ジュネーブ条約もILO29号条約違反も違法条件としては十分主張したが、主要 な点としては日本民法の不法行為責任を最大の争点として争っている。

第2、判決が認定した加害事実

1、地裁の認定事実

1、2審判決とも、この強制連行・強制労働という歴史的事実を真摯に見つめ、国と企業が共同して計画しかつ実行した共同不法行為と認定した。1審判決は次のように指摘する。

「日本政府は、石炭連合会を含む日本の産業界からの強い要請を受け、重筋労働部門の労働力不足に対応するため、これらの産業界と協議して、昭和17年の閣 議決定により、国策として中国人労働者の日本国内への移入を決定し、これを実行に移した」その実態は「欺網又は脅迫により、原告らを含む中国人労働者の意 思に反して強制的に連行したものであったことが認められる」。更に強制労働に関し、「被告会社における原告らの本件強制労働の実態は、戦時下において日本 全体が食糧不足に陥り、一般の日本人の労働条件も悪化していた事情にあったことを考慮しても、居住及び食糧事情、被告会社の従業員による暴力等の点に照ら して、劣悪かつ過酷なものであったといわざるを得ない」と厳しく認定した。

更に国について「被告国は・・・戦時下の経済を支えるために、重筋労働部門における労働力不足を補うために、原告らを強制連行し、強制労働させることを決 定し、国民動員計画の一環としてこれを行うこととし、傀儡政府の機構である華北政務委員会の下に設置された華北労工協会等を利用するなどして、原告らを強 制連行し、強制労働させたもので」あるとし、「被告国が原告らに対して行った本件強制連行及び強制労働が、公権力に基づく行為であることは・・・明らかで ある」とする。

また被告三井鉱山については「被告会社の行為は、戦時下における労働力不足を補うために、被告国と共同して、詐言、脅迫及び暴力を用いて本件強制連行を行 い、過酷な待遇の下で強制労働を実施したものであって、その態様は非常に悪質である」と厳しく指摘した。更に判決は「被告会社は、原告らにその労働の対価 を支払うこともなく、十分な食事を支給していなかったにもかかわらず、これを行ったことを前提に、本件強制労働の実施による損失補償として、被告国から 774万5206円を受け取っており、これは現在の貨幣価値に換算すると数十億円にも相当する。このように、被告会社は、本件強制連行及び強制労働によ り、戦時中に多くの利益を得たと考えられるうえ、戦後においても利益を得ている」と指摘している。

2、高裁の認定事実

この点については、高裁の判断も基本的に変わりがない。判決は「自国で家族とともに平穏に暮らしていた一審原告らが田川鉱業所や三池鉱業所で労働に従事す るために日本に連れてこられたことは、これを人倫にもとる行為であり、強制的な連行であると評価せざるを得ない」「1審原告らは、田川鉱業所や三池鉱業所 において、敵国の国家要員と位置付けられて意に沿わない労働に従事させられたに等しく、このことは人倫にもとる、人間の尊厳を著しく傷つける違法な行為で あり、強制労働であると評価せざるを得ない」「本来、悪を為しえない、なしてはいけない高い道義性が要求されるのが、国のあるべき姿である。1審原告らを 使用したのは被控訴人国ではないと主張して、本件強制労働に関する責任を回避しようとする弁解は、現在は勿論当時も許されるべきではない」として、国の強 制労働に関する無関与という弁解を排斥してその不法行為責任を断罪し、国家無答責の主張をも退けて国の責任を認めている。

被告三井の保護義務違反については「1審被告会社が、然るべき報酬も支払わず、安全衛生に十分な意を用いない劣悪な職場環境で、重筋労働を行うに足る十分 な食事を与えず、食事制限も制裁の一内容として、暴力と暴言により、1審原告らを隷従させ、積極的には承諾していない労働に強制的に従事せしめた実態は、 保護義務に違反したものと解するのが相当である」。事実の指摘と加害の認定は極めて明瞭である。

第3 判決が認定した被害の事実

地裁の認定事実

すでに述べたように、判決は、原告らがその意思に反して強制的に連行されてきたこと、その意思に反して非人道的に(人倫にもとる)強制労働に従事させられ た事実を認定した。これはそのこと自体が肉体的・精神的被害である。更に判決は原告全員について、個別に、詳細に被害の事実を認定している。紙数の関係で 全員について述べる余裕はないが、その一端を記せば次のとおりである。

原告張宝恒は、18歳のとき、八路軍の事務所から家に帰る途中、突然日本兵から捕らえられて、殴る蹴るの暴行を受けた後、日本に送られ、三井田川鉱業所で 働かされた。約束の2年(国も企業も2年で帰国させると約束していた)が過ぎた時、帰国を求め、食料を増やせと要求して仲間とストライキを起こした所、警 察や在郷軍人らによって鎮圧され、数十日間田川警察署に留置され、5日間、飲まず食わずの扱いを受けている。戦後帰国時に賃金として受け取った小切手(預 り証?金額不明)は天津の日本の銀行が閉鎖していたため換金できず紙切れとなった。帰国後、敵国に出稼ぎに行ったとして非難された。

原告劉千は、三井三池炭鉱で働かされたが、「仕事はドリルで穴を開け、火薬を詰め、爆発させて、粉砕した石炭をコンベアの載せる採炭作業であった」。劉 は、腰を伸ばそうと立ち上がったとき、日本人の監督から怠けていると斧で大腿部を殴られて骨折し、宿舎で麻酔もかけずに手術は受けたが、接合が悪く身体障 害者となっている。今も両方の足の長さが違い、戦後は農業も満足に出来ず苦労した。

原告高国棟は、両親と家で昼食をしていた時、突然日本兵が3人家に押し入り、銃を突きつけて身体障害者の父親の代わりに連行された。すがりつく母親は原告の目の前で銃剣で刺し殺された。

原告張五奎は、村の役人から飛行場作業に行くようにいわれて焼酎工場に集まったところ縄で縛られて連行された。五奎の母親は、突然いなくなった末息子のことを思い悲しんで精神病になり、原告の帰国後間もなく、帰ってきた息子の顔もわからないまま亡くなった。

判決は、全ての原告について騙され、脅迫され、あるいは暴力によって連行された事実をはじめ、貧しい食事や着たきりの衣服、過酷な扱いなどについて細かく 認定している。病気になった者、手や足を怪我した者、仲間の遺体を焼却炉に運んだ者など詳細な認定である。空腹のあまり道に落ちていた蜜柑の皮を拾って食 べた者、劉千のように布団の上を駆け回るねずみを捕らえて食べた者など、判決は多かれ少なかれ夫々の苦痛と被害を鋭く見つめ、戦中戦後の家族の被害を含め て認定している。

第4 判決で勝ち取った法律上の争点

1 地裁で勝ち取ったもの

不法行為について
国と企業による共同不法行為を認定した。

国家無答責について
国の不法行為を認めながら、国家無答責の法理を適用して国を免責した。

安全配慮義務について
国についても企業についても雇用契約がないことを理由に認めなかった。

時効・除斥について
企業の不法行為を認定したうえで、本件の悪質さを指摘し民法724条後段を一義的に適用することは正義・衡平の理念に反するとしてその適用を制限し、被告三井に対し損害賠償の支払いを命じた。

請求権放棄について
日中共同声明の文言、サンフランシスコ平和条約締結時の中国の見解、平成7年の中国銭外相の発言などを指摘して「中国国民固有の損害賠償請求権が、中国政 府によって放棄されたかについては、法的にも疑義が残されていたものといわざるを得ない。したがって、原告らの損害賠償請求権が、日中共同声明及び日中平 和友好条約により、直ちに放棄されたものと認めることは出来ない」としてこれを認めなかった。

2、高裁で勝ち取ったもの

不法行為について
判決は明確に国と企業の共同不法行為を認定した。

国家無答責について
判決は、旧憲法下での「国家無答責の法理」の存在を認めた上で「少なくとも現憲法下において判断する限りにおいても全て国家は責任を負わないかは、いかに 公益的側面を重視するとしても、慎重に考える必要がある」としながら、「民法715条が公務員の権力的作用に基づく不法行為責任の発生する余地を文理上排 斥しておらず」「公務員の権力的作用に基づく不法行為について民法715条を適用するか否かの解釈は、国賠法施行前においても、判例にゆだねられていた」 「旧憲法下における事例であっても、全て権力的作用に基づく行為について民法が適用されないとする法理があったというのは相当でな」いとしてその適用を排 除し、国の責任を認めた。

安全配慮義務について
会社については、不法行為責任と債務不履行責任は重畳的に存在しうることを前提にその責任を認めたが、国については雇用契約類似の関係の存在を否定してこれを認めなかった。

時効・除斥について
判決は、制度の目的と法的安定性の見地を重視しながら同時に正義の実現をも考慮して、特に民法724条後段(除斥)の適用に関し、効果制限の解釈指針を吟 味した結果、中華人民共和国で公民出入国管理法が施行された1986年2月1日を判断基準として、不法行為についても安全配慮義務についても時効と除斥の 適用を認め、原告らの請求を全面的に排除した。

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