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中国人強制連行群馬訴訟前橋地裁判決要旨

判決言渡日:平成19年8月29日午後1時30分判決言渡
裁判体:前橋地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官: 小林敬子
裁判官:渡邉和義、中野哲美
事件名:平成14年(ワ)第241号、中国人強制連行・強制労働損害賠償請求事件
ロ頭弁論終結日:平成19年1月31日
原告:王俊芳ほか45名(合計46名)
被告:国、青山管財株式会社、鹿島建設株式会社

第1 主文

1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第2 事案の概要

本 件は,原告ら(自らが日本に連行等されたと主張する者のほか,日本に連行等されたとする者の相続人を含む。)が,第二次世界大戦中に被告国の政策に基づ き,被告らによって,中華人民共和国の国民である原告ら又はその被相続人(以下,実際に日本に連行等されたと主張する者を「原告ら等」という。)が,中国 から日本国内に強制連行された上,被告青山管財株式会社(旧商号・株式会社間組)及び被告鹿島建設株式会社(以下,被告青山管財株式会社と併せて「被告企 業ら」という。)の群馬県内(利根川,後閑,藪塚)及び長野県内(御嶽)に所在する事業場において,強制労働をさせられたと主張して,被告らに対して,不 法行為,債務不履行等に基づき,謝罪広告の掲載並びに慰謝料・弁護士費用(合計2300万円)の支払を求めた事案である。

第3 主な争点

1 責任原因

  1. 原告ら等に対する強制連行・強制労働の有無等
  2. 強制連行・強制労働への被告らの関わりと共同不法行為
  3. 中国民法上の不法行為に基づく損害賠償請求の可否等
  4. 強制労働に関わる安全配慮義務違反
  5. 戦後の保護義務違反

2 条約等による請求権放棄
3 国家無答責の法理
4 消滅時効及び除斥期間の経過による請求権の消滅
5 損害額及び謝罪広告の要否

第4 当裁判所の判断

1 争点1の(1)(原告ら等に対する強制連行・強制労働の有無等)について

(1)被告国は,被告企業らを含む土木建築業界及びその他の産業界からの要望を受けて,戦時中の国内の労働力不足に対応するため,「華入労務者内地移入に 関する件」と題する閣議決定及び「華人労務者内地移入の促進に関する件」と題する次官会議決定などにより中国人労働者を日本国内に移入する内容の政策を決 定して,これを実行に移し,その結果として,戦争捕虜や民間人の原告ら等は,日本に行くことについても日本国内で労働することについても,まともな説明を 受けることもないまま,その意思を完全に無視される形で,一方的に日本国内に連行されたものと認められる。 そして,被告企業らは,前記のとおり,被告国の中国人労働者移入政策の決定に関与しただけでなく,前記政策の実行面においても,現地に職員を派遣するなど して協力し,原告ら等の日本国内への連行を実現させたことが明らかである。 そうすると,被告らは,共同して,原告ら等を日本国内へ強制連行したものといえる。

(2)また,原告ら等は,地理も言葉もわからない敵国において,常時監視され,自由 な外出もできないどころか,逃亡を図った場合には官憲や被告企業ら職 員等により捜索,拘束され,暴行を受けるといった状況の下で,休みもほとんど与えられず,過酷な長時間労働に従事させられたものであって,こうした事情 に,戦時下で日本全体が物資不足の状態であったとしてもなお極めて粗末な衣食住等の生活環境も考え合わせると,被告企業らの事業場における原告ら等の就労 は強制労働にほかならない。 他方,被告国は,原告ら等を直接使用したものではないが,戦争を遂行するについて,軍需部門の労働力不足の解消を国策に掲げ,これを実現させるために,軍 や関係官庁とが一体となって,原告ら等の意に反する労働を強制したとの評価を免れない。

以上によれば,被告らは,共同して,原告ら等に対し,被告企業らの事業場での労働を強制したものといえる。

(3) 被告企業らの主張について
ア 強制連行・強制労働の事実はなかったとする主張等について
被告青山管財は,外務省報告書及び事業場報告書の記載からすれば,原告らが主張する強制連行・強制労働の事実があったとはいえないなどと主張し,被告鹿島 建設も,主に事業場報告書等の記載に基づき,事業場の環境は,原告らが主張するような劣悪なものではなかった旨主張するので,以下,検討する。

(ア)まず,外務省報告書及び事業場報告書作成の経緯についてみるに,外務省報告書は,戦後間もない時期に,中国人労働者を使用した事業場が作成した事業 場報告書に基づき,当時の外務省管理局が作成したものであるところ,事業場報告書の作成を決定した「本邦移入華人労務者就労事情調査二関スル件(高裁 案)」と題する文書には,「戦時中本邦ノ労力不足補填対策トシテ本邦ニ移入セル華人労務者ニ就キ,其ノ招致ヨリ送還ニ至ル迄ノ諸般ノ実情ヲ精密ニ調査シ, 内外各般ノ説明資料殊ニ近ク来朝ヲ予想セラルル中国側調査団ヘノ説明ニ備ヘル目的ヲ以テ,概ネ別添要領ニ依り之力詳細調査ヲ実施致可然哉仰高裁」との記載 がある。

かかる記載及び作成された時期等に照らせば,外務省報告書及び事業場報告書は,極東国際軍事裁判(昭和21年5月3日開廷)を前にして,中国及び連合国側 の取調べに対処するために作成されたものと認められ,被告国及び被告ら企業等を含む各事業者側の保身も意図されているものと考えられる。

また,外務省報告書の作成に当たって,被告国は,各事業場から事業場報告書の提出を求めたほか,現地に調査員を派遣して補充の調査も行っているところ,調査員の報告書中には,以下のような記載がある。

(1)「概して言へぱ,業者及び出先警察は共謀して本調査に対し旧悪の洩れるざる様取り計らひ当方がロを酸くして将来の杞憂を説けるに対して表面上は賛同したるも,成る様にしかならぬとの投げ遣り的態度が見え,協力が充分でなかった。」

(2)「只管戦犯ヨリ免レンコトニ汲々トシテ調査団ノ提示セル調査内容ニ対シテ単ニ好条件ヲ羅列シタルガ如キ感アリ。叉木労務管理ニ絶大ナル役割ヲ演ジタ ル警察官ノ態度亦頗ル逃避的ニシテ,之就労中ニ於ケル警察官ノ管理頗ル当ヲ得ザリシコトヲ裏書キスルモノトモ言イ得ベシ。」

(3)「高串の死亡を惹起せる原因に就き,各事業所は挙って大陸に於ける訓練所並に収容所の施設及び食糧の劣悪な点を強調してゐるが,これは死亡の責任を 現地募集関係者に全く転化せんとするロ実に過ぎない。終戦後に於ける死亡疾病の激減,体重の著増は戦時中の劣悪な取扱を示す反証である。」「業者の提出せ る死亡診断書及死亡顛末書の正確度は極めて疑わしい。警察当局の指令に基く死亡診断書の書替は,医療関係者の反感を買ってゐる。」

これらの報告は,外務省報告書の内容に反映されることなく無視されたが,同報告の内容及びこれを無視した被告国の態度は,前述したところの外務省報告書及び事業場報告書の基本的性格を裏付けるものということができる。

以上によれば,外務省報告書及び事業場報告書の強制連行の有無ないし強制労働の実態等に関する記載については,被告らの責任を回避もしくは軽減しようとする意図が窺える。

(イ)次に,外務省報告書を含む中国人労働者移入に関する文書の記載内容についてみると,以下のような記載がある。

(1) 外務省報告書中の「華人労務者就労事情調査報告書(要旨)」の6,7頁
「他ノ約三分ノニ即チ二四,〇五〇名ハ行政供出ニ係ルモノニシテ華北政務委員会ノ行政命令ニ基ク割当ニ応ジ都市郷村ヨリ半強制的ニ供出セシメタルモノ」

(2) 日本建設工業会の華飾労務対策委員会作成に係る「華飾労務対策委員会活動記録」の附録92頁

「供出現地に於ては労働の為め日本に渡る事を極秘に附し連行したる結果出帆港たる塘沽又は青島に至る間に体力,精神力を失ひ」

(3) 被告青山管財の社史「間組百年史」
(被告青山管財の御嶽発電所建設工事に関して)「しかし,こうした稀に見る難工事に直接従事したのは,中国から『俘虜』として強制連行された中国人と,やはり強制連行されてきた朝鮮人であった。」
(利根川事業場に関して)「工事に動員されたのは強制連行された朝鮮人,中国人であった。朝鮮人に関しては,当社の労務課が朝鮮に数回募集に行った。動員 された朝鮮人の数は約1000名に達したという。」「中国人は中国大陸で捕らえられた『俘虜』であり,その数は612名であるが,このうち6名は日本への 途中で病に倒れた。」「すでに現場は極限状態であった。

当時食料は非常に粗悪で,カボチャ,トウモロコシ,サツマイモなどが主食であったが,それすら満足に食べられない慢性的な飢餓状態にあった。過酷な作業の ため死亡者が続出し,中国人は43名が死亡した。また,こうした劣悪条件に耐えられず逃亡する朝鮮人,中国人も相次いだ。」
(後閑事業場について)「この地下工事は一度に数十本の横坑を掘るため,当社の部隊だけでは労力が足りない。そこで海軍の手配により,中国八路軍の捕虜約 1000名,朝鮮人勤労報国隊1500名,海運施設本部から後備招集兵約1000名が集められた。」

(4) 利根川事業場に係る事業場報告書
「輸送状況」「塘沽出港直後逃亡ヲ企テ海中ニ飛ビ入リタル者1名アリタルモ水上警察ノ援助ニヨリ即時逮捕シタリ」

(5) 藪塚事業場に係る事業場報告書
「移入,配置及び送還事情」(御嶽事業場から移動させられてきた中国人労働者に関して)「然ル所右華人ハ大部分非常ナル不健康者ニテ其ノ内歩行不能ナル重病人多数アリ。又両目失明者モ数十名ニシテ殆ンド健康者無キ状態ナリ。」

前記(1)は,外務省報告書の記載であるが,その中においてさえも,「半強制的ニ供出」したことを一部認める記述があるほか,被告企業らの業界団体関係者 が作成した前記(2)においても,中国人労働者に事情を説明しないまま日本国内に連行したことを認める記載がある。また,前記(3)は,被告青山管財の社 史であるが,その中には,端的に強制連行・強制労働を認める記載がある。さらには,被告企業らが作成した事業場報告書(前記(4)及び(5))にも,逃亡 すれば即座に逮捕したことや,事業場の環境が劣悪であったことを示唆する記載が見られる。

このように,いわば被告ら側の立場から作成された文書にすら,強制連行・強制労働の事実があったことをうかがわせる記載が複数見受けられる。

(ウ)次に,中国人労働者の日本国内への移入に関する客観的な事実として,被告青山管財の事業場については,約1年半の間に中国人労働者の約9%が死亡 し,被告鹿島建設に至っては,わずか1年ほどの間に中国人労働者の約25%が死亡していることが認められる。死亡者が,中国人労働者の事業場到着から3か 月経過後にも多数発生していることも併せ考えれば,事業場における待遇が影響しているものといわざるを得ないが,これについて,事業場報告書は,十分な食 糧を与え処遇には概ね問題はなかったなどとするばかりで,合理的かつ十分な説明をしていない。

また,原告ら等は,誰一人として,日本での労働に関する契約を締結していない。しかも,その中には,日本軍と激しく戦っていた八路軍兵士も含まれていたの であり,このような原告ら等が,どのような経緯で,その自由な意思で来日したのかについて,外務省報告書及び事業場報告書は,何ら説明をしていない。

このように,外務省報告書及び事業場報告書は,客観的な事実関係に照らして,不自然,不合理な点があり,信用性については,この点からも疑問があるといえる。

(エ)以上に指摘したとおり,外務省報告書及び事業場報告書は,死亡者数等客観的な数値などはともかくとして,原告ら等の来日の経緯や事業場における待遇 等に関する記載については,その信用性に大きな疑問があるものといわざるを得ず,これを根拠にする被告企業らの主張は,採用することができない。

イ 被告企業らは強制連行に加担していない等とする主張について
被告企業らは,中国人労働者の移入は,被告国が政策決定したものであって,そうした政策決定には何ら関与していないと主張し,また,被告鹿島建設は,仮に 同被告が上記政策決定に何らかの関与をしていたとしても,当初,中国人労働者移入政策は,強制連行を前提としていなかったのであるから,中国人労働者移入 政策への関与をもって,直ちに強制連行に加担したことにはならないとも主張する。

しかしながら,(1)被告企業らが関係する土木工業協会は,昭和17年閣議決定がなされる前である昭和17年10月,「華北労務者使役に関する件」と題す る文書を作成し,華北地方の労働力を現実に使用することを視野に入れて準備を関始していること,(2)昭和17年閣議決定の後には,企両院の主催で組織さ れた「華北(北支)労働事情使節団」に土木工業協会の幹部が参加し,詳細な報告書を作成していること,(3)日本建設工業会の華飾労務対策委員会作成に係 る「華飾労務対策委員会活動記録」には,「(2)華人労務者移入事情」の項目において,「昭和17年夏期企画院に於ては労務動員計画に大なる支障を来し是 か労務給源を何れに求むるやに就いて考慮中偶々土木工業協会に於ては土木建築事業に支那苦力を使用したき事を外務省厚生省等に要請して居つたので思いを山 東苦力に及び協会の労務委員会に之に対する方途に付て諮問して来た」との記載があり,土木工業協会が,被告国に対して,中国人労働者の移入を求めていたも のと認められること,(4)被告企業らは,原告ら等を受入れる際,現地に自らの職員を派遣していること,(5)結果的に,被告企業らを含む土木建築業界 は,鉱山業界(1万6368人,全体の約42%に当たる。)に次ぐ人数(1万5253人,全体の約39%に当たる。)の中国人労働者を受入れていること等 に照らせば,被告企業らは,被告国に対し,業界団体等を通じて,中国人労働者移入を積極的に求め,その実行にも関与していたものということができ,被告企 業らの主張は採用できない。 また,被告企業らの職員は,原告ら等が日本軍等から逃亡できないように厳しく監視されている状況を十分承知した上で,自社が 受け入れ先となる原告ら等の輸送過程に関与したものであるから,被告企業らは,原告ら等の強制連行について承認し,部分的にせよ,これに加担したものとい わざるをえないから,この点に関する被告鹿島建設の主張もまた採用しがたい。

2 争点2(条約等による請求権放棄)について

日中国交正常化交渉の経緯からすれば,日中共同声明5項は,戦争賠償だけでなく,個人の請求権をも含めてサンフランシスコ平和条約の枠組みの中で処理を行 うもの,すなわち,国内法においても,詞人の請求権も含めて,戦争の遂行中に生じたすべての請求権を裁判上訴求する権能を失わせることを明らかにしたもの であると解するのが相当である。

そうすると,日中戦争の遂行中に生じた中華人民共和国の国民の日本国又はその国民若しくは法人に対する請求権は,日中共同声明5項によって,裁判上訴求す る権能を失ったというべきであり,そのような請求権に基づく裁判上の請求に対し,同項に基づく請求権放棄の抗弁が主張されたときは,当該請求は棄却を免れ ない(最高裁判所平成19年4月27日第2小法廷判決・平成16年圀第1658号)。

しかるに,原告らの本件訴えに係る請求権は,いずれも日中戦争の遂行中に行われた被告らの原告ら等に対する強制連行・強制労働の事実に基づくものであり, 仮に同請求権の発生が認められるとしても,いずれも日中共同声明5項によって裁判上訴求する権能を失っているといわざるをえない。

3 結論

以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも理由がない。

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