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札幌高等裁判所判決解説:史上最低の札幌地裁判決 ―その後の高裁での審理

1999年9月1日に33名,2002年8月に10名の追加提訴を行った北海道訴訟は,2004年3月23日に札幌地方裁判所で判決をむかえまし た。しかし地裁判決は,原告が主張した強制連行・強制労働の事実を引用して「概ね認めることができる」などとするだけで自らの言葉で事実認定をまともに行 わなかったばかりでなく,奴隷労働を「本件加害行為」としたうえで,国家無答責,時効・除斥についても,被告らの言い分をそのまま全部認めるという「史上 最低の判決」でした。全く,論評にも値しない判決でした。

原告らはただちに控訴しました。札幌高等裁判所では,劉致中さんの尋 問,居之芬さんの尋問を行いました。居之芬さんは,中国人強制連行・強制労働の歴史的背景,その政治的仕組み,華北労工協会の役割などについて詳しく証言 しました。私たちは,東川の現地調査(検証)と金巻鎮雄さんの証人尋問を求めましたが,裁判所は採用しませんでした。そして2006年10月24日,判決 言渡し日を2007年3月20日と指定して,札幌高等裁判所の審理は結審しました。

判決言渡し期日の取消し

2007 年1月15日,広島西松事件で最高裁が「請求権放棄」について3月16日に弁論を開くという報道がなされました。国はすぐに「判決期日取消し」の上申書を 裁判所に提出し,2月19日札幌高等裁判所は3月20日の決言渡し期日を取り消しました。弁護団は直ちに裁判所に面会して期日取消の撤回を求めましたが, 裁判所は「最高裁に係属している事件の推移を見極めたうえで判決を検討したい」として,期日の取り消しを撤回しませんでした。

同趣旨の上申書を国は新潟訴訟(3月14日東京高裁で判決言渡し予定),宮崎訴訟(3月26日宮崎地裁で判決言渡し予定)にも出していましたが,判決言渡し期日を取り消したのは,札幌高等裁判所だけでした。

こ れは「司法権の独立」を基本原理とする日本国憲法を踏みにじるものであり,絶対容認できないことです。44の団体,個人から抗議・要請文を裁判所に集中 し,3月20日には趙宗仁氏・康健弁護士も来日して判決言渡しを求めましたが,判決は出されませんでした。また,最高裁広島西松事件で争点となっている 「請求権放棄」について,裁判を再開するよう求めましたが,裁判所はこれも無視しました。

そして,2007年6月28日に札幌高等裁判所の判決が言渡されました。

札幌高裁判決―原告敗訴

裁判所が認定した事実

札 幌高裁は,4月27日の最高裁判決(被害者逆転敗訴)の結果を見たうえで,原告敗訴の判決を言渡しました。冒頭,弁護団が「請求権放棄についての弁論再開 申立について判断しないまま判決をするのはおかしいのではないか」と指摘したところ,裁判長は血相を変えて「弁論は再開しない。判決を言渡す。」として, わずか1分ほどで判決主文を読み上げて,早々に引き上げてしましました。新潟,宮崎,長崎に引き続いて,札幌高裁でも原告は敗訴しました。

国 は,地裁,高裁を通じて「原告らの主張に係る請求原因事実を認否する必要性を認めない」として,加害事実についても,被害事実についても一切「認否」をし ない態度を取ってきました。しかし札幌高裁は,原告の立証に基づいて,以下のとおり,被害事実を詳細に認定したうえで,国が強制連行・強制労働の全過程の 政策決定と実行に深く関わっていたことを認定しました。

1 判決が認定した被害の事実

札幌地裁判決は,原告の被害事実を「概ね認めることができる」とするにとどまり,被害事実にまともに向き合おうとしませんでした。

しかし札幌高裁判決は,被害者一人一人について,「強制連行の経過,日本への輸送,それぞれの労働現場での状況(労働の内容,宿舎,食事,職員から受けた暴行など),帰国の経過」を詳細に認定しました。

 (1)供出の実態
塘沽の収容所の環境は疫病が発生するような特に劣悪なもので,同収容所に収容された中国人は,同収容所内,日本へ向かう船中又は事業所で多数が死亡した。

(2)輸送
収容所の環境が劣悪なものが存在したこと,食糧の準備が十分でなく,その質も悪かったこと,長期間の航海を要したこと,医師の付き添いがなかたこと,貨物 船の船倉内で石炭,塩,鉱石などの上での寝起きを強いられたこと,上陸後直ちに長途の列車輸送を受けたことなどにより,乗船人員3万8935人のうち,船 中で564人(1.5%)が,また上陸後事業場到着前に248人(0.6%)が死亡した。

(3)就労
我が国に連行された中国人は,重筋労働部門で酷使された。

各地の事業場で中国人を監督・監視していた日本人のなかには,中国人を敵国人と見て残忍な仕打ちをする者もおり,殴打はもとより,死に至らしめるような私刑に及ぶようなこともままあった。

(4)生活環境
通風採光等の見地から不衛生なものや採暖の点で問題のあるものがあったほか,一人当たりの居住面積は0.66坪と狭く,28%がござ敷き又は板敷であった。

食 糧については,戦後,外務省が関係事業場から受けた報告では,1人1日平均3991キロカロリーの食糧が支給されたことになっているが,外務省報告におい ても「信憑し得ざる数字」と評されており,質量ともに劣悪であったことは疑いなく,一部の事業場では,死亡した中国人の遺体を食べる者もいるという悲惨な 状況にあった。

(5)死亡者
3万8123人のうち,5999人が事業場到着後送還前に,19名が送還の開始後に我が国内で死亡した。

本件企業らの事業場のなかでは,北炭(天塩)が300人のうち136人(死亡率45.3%),三井(芦別)が684人のうち245人(死亡率35.8%),と全国的に見ても比率が高い。全国135事業場の平均死亡率は17.5%である。

2 強制連行・強制労働と国の関わり

(1) 国は,当時華北方面軍その他の日本軍が支配していた華北及び華中の一部地域において,その軍事力又は国民政府の警察力を用いて,華北の労働力を統制すべき 一元的機関として国民政府下の機関である華北政務委員会をして設立させた華北労工協会,又は運輸通信省が樹立した華中の中国人を港湾荷役に使用するという 計画に基づき労務供出の目的のために特設された日華労務協会に,被害者らの身柄を拘束させた。

(2)厚生省は,移入中国人の事業主に対する割当を行い,華北労工協会,日華労務協会と本件企業らとの間での移入中国人の使用に係る契約の締結を慫慂した。

(3) 大東亜省は,移入中国人の引継輸送月日等を決定し,本件企業らに移入中国人の引継,輸送時の引率,さらには各事業場において移入中国人を使用させた。大東 亜省がその引継輸送月日等を決定したことに端的に示されているように,戦時下における集団輸送には国家機関の関与が必須であったといわなければならない。

(4)内務省,厚生省及び軍需省は,関係地方庁及び警察をして本件企業らに対する治安上の見地からの指導を行わせるなどした。

(5)農林省は,移入中国人の食糧の手当について,特別の措置を講ずることとなっていた。

3 華北労工協会の傀儡性

被 告企業は,中国人労働者については,華北労工協会から労働者のあっせんを受けて正式な労働契約を締結しているのであって,強制連行ではないと主張していま した。しかし札幌高裁は,以下のように判断して,華北労工協会の傀儡性を認定し,「強制的」であることを認定しました。この裁判所の認定は,中国社会科学 院の居之芬先生の証言基づくものです。

(1)1940年3月「南京国民政府」成立と同時に,「華北政務委員会」が設置され たが,華北方面軍及び興亜院は,1941年7月華北政務委員会に「華北労工協会暫行条例」を制定させ,華北内労働者の募集,輸送,斡旋,登録,職業紹介を 行う組織として華北労工協会を設立させた。

(2) 華北労工協会は,形式上は中国財団法人の体裁を取っており,幹部には中国人が配されていたものの,人事は華北方面軍と興亜院が掌握しており,実務も日本人が執り行っていた。

華北労工協会成立後,同協会の名において,華北の中国人が満州国内の企業に供給されたが,本件被害者らに対してなしたのと同じく,強制的なものであった。

4 国と企業の不法行為責任

札幌高裁は以下のように述べて,企業の強制連行・強制労働が国と企業の不法行為にあたることを認めました。しかし国については「国家無答責」を理由にその責任を認めませんでした。

本 件被害者らがその身柄を拘束されるに至る過程は様々であるが,いずれも,華北労工協会又は日華労務協会の供出という,国の閣議決定,次官決定において取り 決められた中国人移入の施策及びその実施の細目に基づく一方的な措置によってその身柄が本件企業らの担当者に引き渡され,その引率の下,当時母国と戦争状 態にあった我が国に輸送され,終戦までの間,各事業場において,人格の尊厳と健康の保持が困難となるような劣悪な環境の下,その意思に反する重労働を強い られ,多大な精神的損害を受けたものというべきところ,このような本件被害者らの身柄の拘束から我が国への輸送,さらには各事業場での労働の強制に至る一 連の過程は,少なくとも条理に悖るという意味において違法であることは疑いないものといわなければならない。

企業の安全配慮義務違反を認める

・・・・・・・時の壁により請求棄却

札幌高裁判決は,国については「その就労につき直接具体的な支配管理性があったということはできない。」として安全配慮義務違反を認めませんでした。

し かし企業については,「本件企業らは,各事業場において移人中国人を使用したものであるから,その使用に係る移入中国人との間で事実上の使用関係,支配従 属関係,指揮監督関係が成立し,その就労につき直接具体的な支配管理性があったことは明らかである。」として,安全配慮義務違反を認めました。

三 井鉱山,住友石炭鉱業及び熊谷組は,「国家総動員法制の下,本件被害者の採用や労働条件の決定等について国の指示に従わざるを得なかったのであるから,損 害の発生につき過失がない」と主張していましたが,判決は,「本件被害者らの労働環境のすべてが被控訴人国の指示によって整えられたものと見ることはでき ず,例えば,各事業場の監督が本件被害者らに対して理由もなく暴行を加えるというような行為は,およそ被控訴入国の指示によるものであるはずはなく,本件 企業らには,そのような必要以上に過酷な労働環境の下で本件被害者らを就労させたことについて,その責めに帰すべき事由による安全配慮義務違反の事実が あったという余地があるから,上記被控訴人らの上記主張はそのままにはこれを採用することができない。」として企業の主張を退けました。

企業の不法行為・安全配慮義務違反による損害賠償責任は認めましたが,結局,時効,除斥という時の壁によって,被害者の請求は認められませんでした。

ま た,消滅時効を援用するのは「権利の濫用」だとする私たちの主張に対しても,札幌高裁は,消滅時効の援用が権利の濫用となる場合は,「債権者が訴え提起そ の他の権利行使や時効中断行為に出ることを妨害してその権利行使や時効中断行為に出ることを事実上困難にしたなど,債権者が時効期間内に権利を行使しな かったことについて債務者に責めるべき事由があり,債権者に権利行使の機会を保障した趣旨を没却するような特段の事情がない限り,消滅時効の援用が許され るというべきである」と狭く解し,「時効にかかる損害賠償請求権の発生の原因となった事実関係が悪質であったこと,その被害が甚大で悲惨であったこと,債 権者と債務者との社会的・経済的地位や能力の格差等の事情は,債務者が消滅時効を援用することを権利の濫用とさせる事情とはならないと解すべきである。」 として,消滅時効の援用を権利濫用としませんでした。

7月10日,私たちは最高裁に上告しました。

これから,最高裁を舞台にしたたたかいがまた新たに始まります。

まだまだ,解決の途は閉ざされていません。8月17日には高崎暢,小坂祥司,田中貴文の3名が北京に行って,原告たちに判決報告を行なうとともに,今後のたたかいについて議論してきました。

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