Home > 北海道訴訟 > | 強制連行訴訟 > 札幌高等裁判所第三民事部の判決言渡期日取消に抗議し3月20日(火曜日)午前11時に判決を求める声明

札幌高等裁判所第三民事部の判決言渡期日取消に抗議し3月20日(火曜日)午前11時に判決を求める声明

2007(平成19)年2月26日
中国人強制連行・強制労働北海道訴訟弁護団

1 本件訴訟の概要

1943年4月から1945年6月にかけて,3万8939名の中国人が日本に強制的に連行され,全国135ヶ所の炭鉱や金属鉱山,発電所,港湾などで強制 労働を強いられた。このうち,北海道には58の事業所(全体の約43%)に1万6282名の労働者(全体の約42%)が強制連行されてきた。戦争中,北海 道は石炭や,水銀,マンガン,鋼鉄等の戦略物資の補給基地として位置づけられ,当初は朝鮮から労働者を強制連行して強制労働を強いてきたが,侵略戦争の戦 線拡大により労働力はさらに不足するようになり,ついには中国人労働者を強制連行するようになったのである。

北海道は日本の最北端に位置する酷寒の地である。厳しい気象条件のもとでの過重労働は,日本の他地域とは比較にならない程苛酷であり,したがってその死亡 率は高く,川口組芦別(三井芦別炭鉱の坑道堀進)278人(46.3%全国第2位),北炭天塩炭鉱136人(45.3%全国第3位),地崎組大夕張(三菱 大夕張炭鉱の坑道堀進)148人(38.1%全国第8位)に及んでいる。

北海道に強制連行された労働者のうち42人は,国と加害企業に対し謝罪と賠償を求めて,札幌地方裁判所に1999(平成11)年9月に第一次の,2002(平成14)年8月に第二次の提訴を行った。

2 札幌地方裁判所民事第二部における審理と判決

2004(平 成16)年3月23日,札幌地方裁判所民事第二部(奥田正昭裁判長,氏本厚司裁判官,徳井真裁判官)は,「原告ら等が,暴力的にあるいは威嚇等によりその 意思を制圧され,又は欺罔されて,戦争が終了するまでの間,人格の尊厳と健康を保持することが困難となるような劣悪な環境の下で,我が国に連行され,その 意思に反して重労働を強制されたという事実の概要については,これを優に認めることができるというべきである」として,「強制連行・強制労働」の事実は認 めたものの,国家無答責により国の加害責任を免責し,加害企業についても除斥期間の経過により責任はないと判じた。

この間,中国人強制連行・強制労働事件については,和解解決あるいは被害者勝訴の判決が続いており,請求棄却となった判決においても事実認定だけでなくその法的責任を求める判決が相次いでいた。

2000(平成12)年11月 花岡事件(被告=企業のみ)(東京高裁)
1審判決は原告敗訴であったが,被告鹿島と提訴被害者を含む全被害者と基金創設により解決

2001(平成13)年7月 劉連仁(被告=国のみ)(東京地裁)
戦後の不法行為を認定
国に対し2000万円の支払いを命ずる(除斥期間の適用を認めず)

2002(平成14)年4月 福岡1陣(被告=国と企業)(福岡地裁)
企業の時効・除斥の主張を排除
企業に対し一人1100万円の支払いを命ずる

2002(平成14)年 広島西松(被告は企業のみ)(広島地裁)
企業の不法行為だけでなく安全配慮義務を認める
時効・除斥により企業の責任免除

2003(平成15)年1月 大江山(被告=国と企業)(京都地裁)
国の国家無答責の主張を排除
企業の安全配慮義務を認める
時効・除斥により,国と企業の責任を免除

2003(平成15)年3月 東京2次(被告=国と企業)(東京地裁)
国の国家無答責の主張を排除
時効・除斥により,国と企業の責任を免除

札幌地裁判決の3日後に言い渡された新潟事件(被告=国と企業)において,新潟地裁は企業だけでなく国の安全配慮義務も認め,時効の主張を排斥し,また国の主張する請求権放棄の主張を退け,被害者1人あたり800万円を認容した。
被害者たちは札幌地裁判決に対しただちに控訴し,本件は札幌高等裁判所第三民事部に係属することになった。

3 札幌高等裁判所第三民事部における審理と結審

本件は札幌高等裁判所第3民事部(伊藤紘基裁判長,北澤晶裁判官,石橋俊一裁判官)に係属することになり, 中国社会科学院近代史研究所の居之芬研究員,被害者劉致中の尋問などを実施した。
控訴審の審理中である2004(平成14)7月,西松広島事件について広島高裁は,1審原告敗訴判決を退けて企業に被害者1人あたり550万円の賠償を認 める旨の判決を言い渡した。高裁判決は企業の安全配慮義務を認めたうえで時効の主張は「著しく正義に反し,条理にも悖る」としたほか,請求権放棄について も企業の主張を採用しなかった。また2004(平成14)年9月,大江山事件について大阪高裁で,被害者と企業は被害者一人あたり350万円で和解解決し た。
このような状況のなかで,中国人強制連行・強制労働事件北海道訴訟は2006(平成18)年10月24日,本事件の判決言渡期日を平成19年3月20日午前11時と指定して,弁論を終結した。

4 札幌高等裁判所第三民事部の判決言渡期日の取消

ところが,判決言渡期日の直前の平成19年2月19日になって,札幌高裁は突然,上記判決言渡し期日を取消し,期日を追って指定とする旨の通知(書記官を 通じての電話)をするに至った。そこで当弁護団は判決言渡期日取消の理由を確認すべく,翌20日午前9時40分から石橋裁判官と面談した。

  1.  石橋裁判官は「最高裁が広島高裁の事件で弁論を開くと新聞報道などで聞いている。強制連行だけではなく戦後補償全体に影響する判断がでるかもしれないので,その最高裁に係属している事件の推移を見極めたうえで判決を検討したい」と述べた。当弁護団は,更に,判決言渡し期日を取り消すにあたり,それ以外の理由があるかを確認したが,特に他の理由は示されなかった。
    なお,裁判所が言う「最高裁に係属している」「広島高裁の事件」とは,西松広島事件のことを言い,3月16日に最高裁で弁論が開かれることになっている。
  2. 裁 判所は,平成18年10月24日控訴人らにおいて更に地崎東川の現場検証等の証拠調べの申請をしていたにもかかわらず,それを不要とし,弁論を終結して, 今回の判決言渡期日を指定した。それは,この段階で,裁判所が判決をするに熟していると判断し,指定した期日において判決言渡しが可能であると判断したか らである。もしこの前提が維持できず,判決するに更に日数を必要とするというのであれば,そもそも判決するに熟しているという判断自体に誤りがあったと言 うべきである。そうであるならば,弁論を再開するのが筋である。石橋裁判官は,この弁護団側の問いに対し,「裁判所は,判決するに熟しているとの判断は今も変わらない」と返答した。つまり,予定していた平成19年3月20日に判決言渡をすることに支障はないということである。
  3. 当弁護団は,国から裁判所宛てに判決言渡期日取消の「上申書」が提出されていることを確認した。
  4. 当弁護団は,直ちに「判決言渡期日の取消に抗議し,その撤回を求める上申書」を提出し,「2月23日までに回答するよう」札幌高裁第三民事部に求めたが,2月23日を経過しても,裁判所からは言渡期日取消撤回の連絡は来なかった。

5 札幌高等裁判所第三民事部の判断の違法性

  1.   以上から見れば,札幌高裁の判決言渡期日取消の理由は,ひとえに,最高裁判所における審理状況に歩調を合わせ,その結果がどのようになるかを見てから自ら の判決を行おうというところにあると言わざるを得ない。このような姿勢は,訴訟法上(民事訴訟法第93条第4項)はもとより,司法の根幹である裁判官の職 権の独立(憲法第76条第3項)の観点からも極めて問題のある姿勢である。それはつまり,最高裁の判断が出る前に,自らの判断を示すことを避けるという姿 勢である。
    憲法第76条第3項は「すべて裁判官は,その良心に従ひ独立してその職権をひ,この憲法及び法律にのみ拘束される」と定めている。本件についても,裁判所 は,その自らの良心と法に従って,平成18年10月24日の段階で判決に熟したと判断し,今回の判決言渡期日の指定を行った。そうであればそれを全うし, 最高裁がどのような判断を下すことになろうとも,自らの良心と法に従った判断を行うべきであろう。自らが設定した平成19年3月20日の日に,その判断を 行うことは十分可能なはずである。それを行わず,理由も薄弱なまま判決言渡期日の取消を行い,最高裁の判断を見てから,それをふまえた判決をするというの では,到底自己の良心と法に従って判断をしたということはできない。最高裁判例の拘束力といっても,下級審判決がこれと異なる判決をしてはならないという ものではない。その判決が判例違反として上告の対象となるというだけのことであり,判決が十分な説得をもつものである場合には,判例変更の可能性さえある のである。そうであるから,最高裁の判断を待ってから自らの判断を行うという姿勢は,判例の拘束力の考え方から言っても容認できるものではない。
    このような裁判官の姿勢は,司法に対する国民の信頼を大きく失わしめるものであり,三審制の否定,「司法の死」を意味する。面談の際も,裁判所にその問題 性が認識されているとは思われなかった。これでは裁判官の職権の独立の放棄と言わざるを得ない。控訴人らは,最高裁の判断を聞きたくて裁判所に申立を行っ ているのではない。これまで主張・立証してきた事実をもとに,裁判所としてどのような判断を行うのか,それを期待しているのである。
    裁判官は何をよりどころとして判断をするのか,その判断に対してはどこに責任を負うべきなのか,それは自己の良心と法であるはずである。自らの事件の判断は自らの責任に基づいて行うべきであり,それが裁判官の職権の独立(憲法第76条第3項)の核心である。
  2. 司 法権の独立をめぐっては,国政調査権をめぐる「浦和事件」,裁判所の訴訟指揮をめぐって裁判官が訴追された「吹田黙祷事件」,長沼訴訟に関して平賀札幌地 裁所長が行った「平賀書簡問題」などの事例がある。これらはいずれも,国会,裁判官訴追委員会,地裁所長という,当の裁判体とは異なる機関から当該裁判官 の職権の独立に対して加えられた圧力である。しかし,今回の札幌高等裁判所第三民事部の判断は,他の機関,権力から圧力を受けた結果ではなく,自らがこれ を良しとして判断した結果である。
    これまで,下級審が最高裁の審理経過を見ながら判決を言い渡しているのではないかと疑わしめるような事例があったこと,またそのことが裁判所内で隠然と語 られているのではないかとの疑いはあったが,今回札幌高等裁判所第三民事部は公然とそのことを語った。このことについて,司法の危機を感じ取るのは我々弁 護団だけではないだろう。権利救済機関である司法に対する国民の信頼を大きく傷つけるものであり,それは「司法の死」というより,「司法の自殺」というべ きである。
  3. 最 高裁で「請求権放棄」について弁論が開かれるということであれば,裁判官として,「もう一度さらに検討してみたい。弁論を再開して当事者の意見をもう一度 詳しく聞いて考えて判決したい。」というのであれあれば,当初の判決期日の取消は理解できないでもない。しかし,西松広島事件で最高裁が「弁論期日を開 く」というだけで,しかも「判決に熟している」と言いながら,弁論期日の再開も考慮せずに,ただ,最高裁の判断待ちということで判決期日を延期して待つと いうのでは,裁判官としての信念も良心も独立も放棄したものとして,到底許されることではない。
  4. さらに考えられな ければならないのは,本事件が通常の民事事件とは異なる集団訴訟事件であり,しかも,控訴人が戦時中の強制労働の被害者である中国人であるということであ る。控訴人らは,今回の判決言渡しに向けて,当日の法廷への出廷の準備やその後の企業,国等への要請活動などの準備を進めている。法廷に出廷する控訴人 (趙宋仁)は,すでに渡航のための手はずを整えており,期日が取消となることによる影響は大きい。判決言い渡しに向けたこのような控訴人らの動きについて は,容易に日程調整や移動が可能な国内の当事者の案件とは異なる取り扱いがなされるべきである。
    何よりも中国人被害者らは,札幌高等裁判所第三民事部が慎重な審理の上,3月20日には公正な判決を言渡してくれるだろうことを期待して1万9000筆を 越える署名を提出しているのであり,今回の判決言渡期日取消は,被害者らの要求を踏みにじるものであるだけでなく,中国国民の日本の裁判所に対する信頼を 大きく損なうものである。
  5. 中 国人強制連行・強制労働事件で現在地裁に係属中の事件は,群馬訴訟,宮崎訴訟,山形港運酒田訴訟,長崎訴訟,石川七尾訴訟の5件,高裁に係属している事件 には本件のほか,新潟訴訟,長野訴訟,福岡2陣訴訟の4件,最高裁に係属している訴訟は,西松広島,劉連仁,福岡1陣,大江山,東京2次の4件である。こ れらの事件のうち,本年3月には以下の4件について判決が言い渡される。
    3月14日 新潟訴訟(東京高裁)
    3月20日 北海道訴訟(札幌高裁)
    3月26日 宮崎判決(宮崎地裁)
    3月27日 長崎事件(長崎地裁)
    これらの事件はいずれも国と企業が被告となっており,おそらく国はいずれの裁判所に対しても本件と同様の「上申書」を提出しているものと思われる。しか し,いずれの裁判所も「最高裁に係属している事件の推移を見極め」るために「判決言い渡し期日の取消」をするなどということはしていない。裁判所によって は弁護団の意見の照会も行っている。国から上申書が出されていることを明らかにしないで,弁護団の意見も聞かず判決言渡期日を取り消すという札幌高等裁判 所第三民事部の判断は全国的に見ても特異であり,訴訟当事者はもちろんのこと,日本国民,中国国民の誰からもその支持を受け得ないことは明白である。仮 に,裁判所がこの判断を維持するのであれば,日本国内にとどまらず,中国をはじめとする国際世論から激しい非難を受けることになることは必定である。

6 結論

以上のとおり,今回の判決言渡期日の取消は,訴訟法上の根拠もなく,かつ,その理由が裁判官の職権の独立の放棄につながる司法の根幹にかかわる重大事であ る。当弁護団は,このような札幌高等裁判所第三民事部の判断に強く抗議をするとともに,3月20日(火曜日)午前11時に判決の言渡しを行うよう求めるも のである。

以上

Home > 北海道訴訟 > | 強制連行訴訟 > 札幌高等裁判所第三民事部の判決言渡期日取消に抗議し3月20日(火曜日)午前11時に判決を求める声明

検索
解決へ向けた取り組み
おすすめ書籍

Return to page top