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強制連行群馬訴訟東京高裁最終弁論-森田弁護士

意見陳述

東京高等裁判所第10民事部 御中                     
2009年10月6日
弁護士 森田太三

中国人強制連行強制労働事件をめぐる国内・国外の現状と政治情勢

1 私は,全国の中国人強制連行強制労働訴訟事件の団長代行の立場から,中国人強制連行強制労働事件をめぐる国内・国外の現状と政治情勢について陳述致します。

いうまでもなく,2007年4月に出された西松建設最高裁第2小法廷判決は,同種の裁判に大きな影響を与えました。個人請求権の有無については,実体的請求権は残っているとしつつ,日本の裁判に訴える訴権がなくなったと判断し,その上で,企業を含む関係者(これは日本国を含む)らにおいて被害回復に向けた自主的解決の期待を表明したのでした。

しかし,これで問題の解決が図られたわけではありません。むしろ最高裁判決が,期待の表明だけで事を済ませたため,最高裁判決後も,下級審裁判所を始めとして,訴訟外の交渉,政治の各舞台で解決に向けた努力が続けられてきました。

2 司法の場においては,全国の裁判所の努力に敬意を表したいと思います。福岡第2陣訴訟を担当した福岡高裁第2民事部は,2008年4月21日,和解所見を出し,解決の協議を尽くしたいと表明し努力をされましした。

2009年3月27日に判決を出された福岡高裁宮崎支部も,判決前に粘り強い和解を試み,企業である三菱マテリアルの役員にも裁判所への出頭を求め,和解の努力をされました。

判決においても一つの傾向が見られます。その特徴は,請求権について訴権がなくなったという最高裁判決に従いながらも,決して事実を疎かにすることなく判決で事実認定し,また国と企業の共同不法行為責任を認め,実体的請求権の存在を確認して,解決の余地を残していることです。

先に紹介した福岡高裁宮崎支部判決は,国家無答責の適用を排斥して国の不法行為責任を認めた上で,あえて時効除斥問題に触れず,また,2009年9月17日に判決を出した東京高裁第19民事部は,国家無答責や時効,除斥には触れず,国と企業の共同不法行為責任を認めて,自主的解決に触れました。また,いずれも企業の安全配慮義務を認めて,全体として,国と企業の違法行為と請求権の存在を認定しています。

3 さて,訴訟外の場面においては,何よりも西松建設の解決に向けた取り組みがあります。
本年5月1日に新聞報道されたように,新役員に一新した西松建設は企業のコンプライアンスの観点から,この問題の解決を図ることを決定しました。従来,企業は国とこの問題に関わった全企業が一緒でなければ,解決に向けて踏み出すことは難しいとの姿勢を示していましたが,西松建設は,当面国が解決に乗り出さなくとも,また他の企業が共同の歩調を取らなくとも,西松単独で解決を図るとしています。そして,現在,西松建設に働き,発電所建設に従事した広島県安野と新潟県信濃川の全被害者543名を対象とした和解の協議が,被害者代表との間で進められています。この拠り所となったものが,2007年に出された最高裁判決であることはいうまでもありません。

すでに数回の交渉がなされており,本年中には解決できる予想が出ています。これが解決できれば,秋田花岡和解,京都大江山和解に続く新しい先例がまた一つできることになり,他の企業や国に解決を求める声は一層強くなってゆくでしょう。

この場に出頭されている鹿島建設,旧間組(青山管財)にも,改めて要請致します。私たちはすでに何度も要請に行き,面会を求め解決を要求してきました。時には社前での厳しい対応もあり,その姿勢には変遷がありましたが,被害者にも会い,対応されてきたと思います。しかし,解決に向けた協議は開始されていません。
しかし,すでに国と企業の違法行為は明白であり,解決の必要性も明白です。企業が法令を遵守する必要,企業の社会的役割,その社会的責任が特に問われる現在の社会において,人間を奴隷のように扱い不当な利潤を得た企業は,その清算と責任を果たさなければならず,それを実行することが今こそ求められています。

4 中国の動きはどうでしょうか。中国政府が,この問題を遺棄毒ガス問題,慰安婦問題とともに「戦後遺留問題」として,日本側に「真剣な対応と善処」を求め,解決を促していることはこれまで何度も触れてきました。特に,2007年西松最高裁判決に際しては,改めて,「日本は中国侵略戦争中,中国人民を強制連行し,奴隷のように扱った。これは・・・重大な犯罪行為であり,現在も適切に処理されていない現実的で重大な人権問題である。」と中国外交報道官が声明を出しています。詳しくは紹介できませんが,今,中国では,西松建設の企業和解で作られる基金の受け皿機構について検討がなされています。この機構は個別企業の作る基金の受け皿ですが,将来の日中両国政府の全面的政治解決の際における国と企業の共同の補償基金の母体となる可能性を持つものと期待されています。

5 日本の政治状況について,述べたいと思います。
本年8月の衆議院総選挙によって,民主党を中心とする新しい連合政権が誕生しました。この政権は,前政権とは異なり,東アジア共同体の構築を構想し,1995年の村山元首相の談話を踏襲し,歴史認識においても過去の克服を目指して取り組もうとしています。これまでの各野党もそうですが,特に民主党は,政権につく前にも戦後処理プロジェクトチームを立ち上げ,戦後補償問題の解決を検討し始めていました。その中には,中国人強制連行問題も含まれます。

私たちは,新政権に対し,この訴訟において国が和解のテーブルにつかない姿勢を改めるべきことを要請しています。そして,今,現政権がこの要請を「検討中である」との回答を得ています。現政権の抱える課題は多様ですが,この問題の解決に向けて必ずや国の政策の転換がなされるものと確信しています。

6 当裁判所に期待すること
本件群馬訴訟は本日をもって結審となる運びです。私たちは,当裁判所が本件事件の事実の解明に向けて正面から向き合って頂いたことを評価致します。また,個人請求権問題について,中国の学者証人を採用されて新しい証拠資料を収集され,検討をなされようとしたことに敬意を表します。

しかし,なお願わくは,この問題に対する解決の努力を判決言い渡し当日までなされることを希望致します。
新たな政権は,この問題解決への可能性を秘めており,これから成立する西松和解などの事情を見れば,日本政府の姿勢の転換の時期もそう遅くないものと予想されます。すでに,後期高齢者医療保険制度は政策の見直しによって,国の裁判への対応が変わったことが報道されています。

どうか,国の姿勢の動向,転換に注意を払いながら,判決言い渡し日の最後まで,裁判所がこの問題の解決に向けて尽力して頂くことを最後に重ねて希望し,陳述と致します。

以上

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